吹き溜まり(blog版)

そーれ、ヒット&ラ〜〜ン。    −2008年元日−
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『翔ぶが如く』 司馬遼太郎
 この作品は夏に読み始めたのだが、半年以上要して3月にやっと読了した。10巻まであるから単純に量が多いというのもあるのだが、それ以上に作品全体を通して重苦しい雰囲気があり読んでて疲れるのだ。ゆえにページは遅々として進まない。今まで司馬遼太郎の作品は10作品以上は読んできているが、こんなに疲れる作品は初めてだった。後半は、1巻読み終えるごとに他の小説を読んだりしていたから余計に時間が掛かってしまった。


 本作品は維新後〜西南戦争までの日本を西郷隆盛と大久保利通(というか旧薩摩藩)を中心に描いているのだが、疲労の原因はこの描写されている時代にある気がしてならない。今まで読んできた司馬作品の時代は全て源平・戦国・幕末のいずれかだったのだが、これらに共通して言えることは「旧時代を打ち壊して各々が理想とする新時代を築き上げることを目指している」ということだ。それは「攻め」であり、その攻めの原動力として「陽のエネルギー」を感じる。一方で本作品は明治という新時代が成立し、この新時代を反乱分子からいかに守るか、すなわち「守り」であり、「陰のエネルギー」なのである。確かに反明治政府の反乱分子達から考えれば新時代を打ち壊す「攻め」という捉え方もあるのかもしれないが、前述の「攻め」とはやはり異なる。桐野利秋(=中村半次郎)を中心とした薩摩の反乱軍たちは「明治政府を倒して再度新しい日本を作り直す」なんていう崇高な思想や意志は無く、廃藩置県という天変地異を自分達の中でどう整理をつけてよいのか分からず、(彼らにとって)その諸悪の根源たる明治政府に彼らの中に充満している不満・不安といった鬱屈したエネルギーをただぶつけたいだけなのである。要するに戦争がしたいだけなのである。前向きな「陽」とは言い難い。だから読んでいる最中、私の想像の中では自然と桐野の反乱軍・大久保の明治政府どちらも苦虫を噛んだような冴えない表情をしていた。
 ところで、私が「西郷の反乱軍」ではなく「桐野の反乱軍」と書いているのは、維新の元勲で新政府を樹立させた張本人である西郷に明治政府を倒すつもりはなかったはずだと考えているからである。また、諸外国と渡り合って行かなければならない当時、国内で争って国力を落とすことは愚の骨頂であることも西郷なら分かりきっていたはずである。実際、西郷は桐野達に担ぎ上げられる形で反乱軍の総大将にはなるのだが、西郷は彼らに戦略や指示は一切出さず、文字通りのお飾りだった。もっとも、これについては西郷の談話などは残っていないようで作者も西郷の真意は測りかねていたようだ。

 また、読んでいて意外だったのが農民達を始め、明治政府を良く思わず徳川時代への回帰を望む人間が多かったということ。明治政府に不満を持っているのは佐幕派の藩に属していた旧士族達ぐらいなものだと思っていたので驚いた。農民に関しては単純に徳川の頃より税が重くなったことや、税が米からお金に変わったことという理由だけなのかもしれないが・・・。小説やテレビでは維新の志士達は英雄であるかのように取り上げられているが、当時はそうは思われていなかったのかもしれない。
 そしてもう一つ全く知らなかったのが、明治草創期は大久保の独壇場であったということ。実質、初代総理大臣である。というか、一時的ではあるが司法権も握ったりしていたからむしろ総理大臣よりも大きな権力を持っていたのだろう。行政と司法のトップに立つなんてほとんど独裁者である。まぁ、当時にしても超例外的措置だったようだが。何となく、個人的には薩摩のリーダーと言うと西郷のイメージが強く、その陰に隠れてしまっていたがやはり「維新三傑」の一人に数えられるだけのことはあるようだ。西郷は征韓論に敗れた後は官職を捨てて郷里に引き籠ってしまったので、大久保に対して堂々と反対意見や批判をできたのは木戸ぐらいなものだったようだ。しかし、その木戸も毎回伊藤博文の説得でなだめられ、大久保は自分の力を確固たるものにしていった。長州人の伊藤が薩摩人の大久保の側に付き、同郷の大親玉である木戸を説得する側に回るあたりに、伊藤の卓越した政治力を感じたりもする(普通、長州人は薩摩人を嫌っているから、感情的に薩摩の側に付くことはあまりない)。もっとも、大久保のやり方は敵もたくさん作ったらしく、最後は暗殺されてしまうのだが・・・。

 ところで、今まで司馬遼太郎の作品を読んでた時にはあまり感じなかったのだが、なぜか今回は司馬遼太郎の想像力の物凄さに驚嘆した。本作では西郷・大久保以外にも一般的にはマイナーな人物が所々でメインの人物となって話が進んで行く場面があるのだが、あたかも本人に密着取材をしていたかの様な事細かな描写がなされている。実際、日本中を飛び回って取材をしたり資料を探し回ったのだろうが、マイナー人物についてあそこまで書けるものなのか。フィクションの小説なら自分の想像力に任せてやりたい放題書いても問題無いが、本作のように史実に基づいた作品の場合は、史実とかけ離れない範囲(当然、脚色はされているだろう)で想像力を巡らせないといけないわけだから、ある意味フィクション小説よりも想像力を要するのではないだろうか。


 日本史はほとんど司馬作品で学んでいる私ですが、未だ『坂の上の雲』は読んでないんだよなぁ。司馬作品の最高傑作との呼び声も高い作品なのだが、これまた8巻もあるから中々手を出しづらい・・・。まぁ死ぬまでには読むでしょう。
 とまぁ、特に結論やオチなんてものは無いわけで、読んで感じたことを心のままに書き殴りたいという己が欲求を満たす為の完全な自己満企画なわけで、ていうかな、個人サイトなんてサイトそのものが自己満なんだよ!!ってことで、ではまた。
| Kim Lee | 書評 | 00:01 | comments(0) | trackbacks(0) | -
『私の個人主義』 夏目漱石
 最近、夏目漱石の『私の個人主義』という本を読んだので、それの感想を徒然と。

 本書は物語ではなく、夏目漱石が明治末期〜大正初期にかけて各地で行った5つの講演を纏めたもの。全て講演での語り口をそのまま文字に起こしているので読みやすい。また、漱石の余談にはユーモアが感じられ、文学史上の人物は堅いとイメージしがちなだけにその意外性がまた良かった。
 結論から書くと、「漱石ってスゲーね。お札になるだけのことはあるわ。」ってとこですかね。大体100年前に行われた講演なわけだが、現代を生きる私が今読んでも「な〜る。」と目から鱗が落ちる点はたくさんあり、その内容はどれもがバランス感覚に優れていて100年経っていても少しも古めかしくない。その内容を少しだけ紹介したい。

 「道楽と職業」という講演では漱石の職業観・仕事観が披露されている。漱石は「仕事とは自分の需要以上その方面に働いて、自分に不要な分を他人の使用に供することであり、自分に不要なことを強いてやることである。仕事となると何でも厭になるのはまさにこの為である。」と仕事の本質を看破する。現代では「好きなことを仕事にしよう」、「趣味を仕事にしてよいのか?」なんて話がよくある。この手の話は現代の日本が全体的に豊かで余裕があるからこそ出てくる話だと思うが、西洋の文明が入って生活が豊かになったとは言え経済大国と呼ばれるには程遠い漱石の時代に既にこのようなことを考えていたことに驚きである。さらに、「文明開化後、職業は多種多様になり、それによって人は専門性を持つようになった。しかしそれによって一人一人の人間が出来る事がどんどん狭くなり人を不具化(=不完全化)させ、孤立を生む。」と説くのだが、まるで現代社会に向けて警鐘が鳴らされているような気さえする。
 また、本書の題名にもなっている「私の個人主義」という講演は学習院で行われ、題名から想像が付くと思うが「もっと自分本位に生きようぜ」って話なのだが、これがまた白眉。「国家は大切かもしれないが、そう朝から晩まで国家国家と言ってあたかも国家に取りつかれたような真似は到底我々に出来る話ではない」、「事実できない事をあたかも国家の為にする如くに装うのは偽りである」、「国家が存亡の危機に陥れば国家のことを考えるのは当然だが、平穏な時に国家国家と騒ぎ回る必要はない」と行き過ぎた国家主義を一蹴する。そして漱石は持って生まれたそれぞれの個性を自己の幸福のために発展させる重要性を主張する。ただ、勿論自分勝手にやれば良いという訳ではなく、自分の個性を主張するということは同時に相手の個性も尊重することが大前提であるとも説いている。やもすると現代でも誤認しがちな個人主義・自己本位という考え方。漱石は「国家と個人」「自己と他人」という相反するもの同士を抜群のバランス感覚を以って見事に解説する。
 この講演の内容は勿論素晴らしいのだが、それ以上に第一次世界大戦の直前期に「国家もいいけど、もっと自分のこと考えて個性を磨こうぜ」と主張する漱石のニュートラルでブレない物の考え方や、この講演をこの時期にこの場所(学習院)でやってのける大胆さに心が惹かれました。

 以上、軽く内容に触れたが、正直この内容が現代行われた講演であったらそこまで感動しないが、冒頭にも書いた通り100年前にこのような主張・考え方をしていることに感動を覚えた。そして100年経った今もなおその内容が少しも色褪せないのは偏に漱石の主張が物事の本質を捉えているからに他ならないと思料致します。
| Kim Lee | 書評 | 01:41 | comments(0) | trackbacks(0) | -
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